堺市 隣接する空き家 アシナガバチの巣駆除

軒下のアシナガバチの巣1
目次

閉じ込められた部屋からの悲痛な叫び!部屋に侵入したアシナガバチを駆逐せよ!

第一章:一本の電話と「110番」の錯覚

その日の午後、私は久しぶりに穏やかな時間を過ごしていた。連日の猛暑とハチとの闘いで酷使した身体を休めるため、自宅のリビングで冷たいお茶を喉に流し込んでいた時のことだ。静寂を切り裂くように、スマートフォンの着信音が鳴り響いた。

画面をタップし、耳に当てた瞬間、飛び込んできたのは若い女性の悲痛な叫び声だった。

「助けてください! お願いです、今すぐ来てください……!」

受話器の向こうから伝わってくる尋常ではない怯え方、そして過呼吸気味の荒い息遣い。私は一瞬、自分が受けたのはハチ駆除の依頼ではなく、警察への「110番通報」の転送か、あるいは重大な事件や事故の現場からの電話なのではないかと錯覚したほどだった。

「落ち着いてください。私はハチ駆除専門の『家の110番』の中山です。何があったのですか?」

私が努めて冷静に、重みのある声で語りかけると、女性は泣きじゃくりながらも、現在の異常な状況を少しずつ話し始めてくれた。

女性は自宅の2階で、子供向けの英語塾を開いている先生だった。

2階には「教室」と「事務所(講師室)」の2つの部屋が隣り合っているという。事件が起きたのはその教室の方だった。お昼過ぎに部屋に入ろうとしたところ、室内を数匹のハチが我が物顔でビュンビュンと飛び回っていたのだという。

「何匹いるかも分かりません……怖くて、もう確認することなんてできなくて……」

さらに最悪なことに、この建物の構造には致命的な難点があった。奥の事務所から1階へ降りるためには、どうしてもハチが占拠している「教室」の真ん中を突っ切らなければならないというのだ。

つまり彼女は、ハチによって完全に退路を断たれ、奥の事務所に「籠城」せざるを得ない状態に追い込まれていたのである。

第二章:退路を断たれた籠城 ― 2階窓からの直接突入作戦

「今は、教室との間の扉も、窓もすべて締め切って、奥の部屋の隅に避難しています。でも、このままじゃ今日の夕方の授業ができません……。すぐに生徒たちが来てしまう。もし子供たちがハチの毒針の餌食になったらと思うと、怖くて、怖くて……」

彼女は既に、パニックになりながらも生徒たちの親御さんへ「今日の授業は急遽お休みにします」と連絡を入れたという。自宅で塾を営む彼女にとって、当日の急な休講がどれほどの心苦しさであり、信用に関わる問題であるかは容易に想像がついた。何より、生徒である子供たちの安全を第一に考えて震えている彼女を、一刻も早く助け出さねばならない。

しかし、ここでさらなる問題が浮上した。

「中山さんが来てくださっても、私は1階の玄関を開けに下に降りることができないんです。玄関は施錠されています……」

ハチの部屋を通れないため、私を迎え入れるための解錠すらできないというのだ。

一分一秒を争う状況の中、私は即座に頭の中で建物の構造をシミュレーションし、ひとつの作戦を立案した。

「先生、よく聞いてください。私は今から20分でそちらへ到着します。着いたらすぐに、私の車にある三連はしごを外壁にかけます。そして、ハチが飛び交っている2階の教室の窓から、直接私が部屋の中に突入します。それで了解していただけますか?」

「はい……! はい! お願いします、気をつけて来てください!」

電話を切り、私はくつろぎモードの衣服を脱ぎ捨てて作業服へと着替えた。車を走らせる道中、私の脳内は完全に「戦時体制」へと切り替わっていた。待っている人がいる。それも、恐怖で身動きが取れなくなっている女性だ。アクセルを踏み込む足に、自然と力がこもった。

第三章:密室の狩人 ―― アシナガバチ5匹の駆逐

堺市内の現場に到着すると、私は車から降りてすぐさま2階の窓を見上げた。

外から見ても、窓のすぐ内側を不穏な影がかすめるのが分かった。やはりハチが部屋の中にいる。

私は車から重い三連はしごを引き出し、2階の窓枠に向けて正確に架けた。手早く防護服を着用し、ヘルメットを装着した。はしごのステップを踏み締め、一歩ずつ屋根へと登っていく。屋根伝いに問題の教室の窓へと到達した。

よく見ると、サッシの窓がわずかに数センチだけ、隙間が空いていた。

「ここが侵入経路か……」

ハチたちは、このわずかな隙間から、初夏の心地よい風に誘われるようにして室内に迷い込んでしまったのだろう。

私は窓を慎重に開け、防護服に身を包んだ状態で、ハチが占拠する密室へと足を踏み入れた。

室内に入った瞬間、ブーンという低い羽音が耳元をかすめた。姿を現したのは、好戦的なアシナガバチだ。狭い室内での戦いは、野生の屋外とは異なる独特の緊張感がある。ハチたちも、外へ出られずにパニックを起こしており、刺激すれば一斉に襲いかかってくる可能性があった。

私は手にした薬剤と捕獲網を構え、壁や天井、カーテンの裏をくまなく目視した。

一匹、また一匹と、確実に、そして静かに仕留めていく。

エアコンの上、教材が並ぶ棚の隙間、ホワイトボードの裏……。死角になりそうな場所を徹底的に探し出し、最終的に5匹のアシナガバチをすべて駆除した。

念のため、クローゼットの中や机の下まで、再度部屋の隅々をチェックする。完全に安全が確保されたことを確認し、私は奥の事務所へと繋がる扉の前に立った。

コンコン、と軽く扉をノックする。

「先生、もう大丈夫ですよ。ハチは一匹残らず退治しました。安心してください」

扉がゆっくりと開き、中から青ざめた顔の先生が姿を現した。私の防護服姿を見て、そして静まり返った教室を見て、張り詰めていた緊張が一気に解けたのだろう。彼女は「あぁ……良かった……」と呟いたきり、その場にヘタヘタと座り込んでしまった。

第四章:元凶を追え ―― 隣の空き家と「ハチの動線」

隣の空き家、軒下のアシナガバチの巣2
隣の空き家、軒下のアシナガバチの巣1
軒下のアシナガバチの巣3
軒下のアシナガバチの巣2
駆除したアシナガバチの巣
駆除したアシナガバチの巣

「本当にありがとうございました……。一時はどうなることかと、本当に生きた心地がしませんでした」

ペットボトルの水を飲み、ようやく落ち着きを取り戻した先生は、何度も頭を下げてくれた。

しかし、部屋の中の5匹を駆除しただけで作業を終わらせてしまっては、プロとしては「片手落ち」である。なぜなら、これほど多くのハチが一度に室内に迷い込むということは、建物のすぐ近くに「大量発生の源」となる大きな巣が存在している可能性が極めて高いからだ。このまま原因を究明せずに帰れば、明日また別のハチが同じ窓の隙間から入ってくるかもしれない。

「先生、まだ終わりじゃありません。外には相変わらずアシナガバチが数匹、浮遊しています。状況から見て、この家のすぐ近くに巣があるはずです。元凶を突き止めましょう」

私は再び外へ出ると、防護服を着たまま、建物の周囲を飛び回るハチたちの動きをじっと観察した。彼らの「飛行ルート」を目で追っていく。ハチには必ず、巣とエサ場を往復する一定の動線がある。

ターゲットの動きを見つめていると、彼らはこの塾の敷地を抜け、隣にある鬱蒼とした「空き家」の敷地へと吸い込まれていくのが見えた。

建物の周りは、手入れがされなくなって久しい雑草や雑木が激しく茂っており、ハチにとってはこれ以上ない隠れ家だ。雑草の根元あたりからも、時折ハチが飛び立っている。

私は隣の空き家の敷地に許可を得て立ち入り、剥がれかかった軒下を見上げた。

「……あったぞ」

そこには、お椀をひっくり返したような特徴的なアシナガバチの巣が、二つ並んでぶら下がっていた。

私は再びはしごを架け、この「招かれざる侵入者」たちの本拠地を電撃的に駆除、撤去した。続いて、敷地内の雑草や雑木をかき分けながら、地面付近にも別の巣がないかを徹底的に調査した。幸いにも、これ以上の巣は見つからなかった。

第五章:安全のための決断 ―― 駆除から「予防」の草刈りへのご提案

しかし、私は目の前の光景を見つめながら、強い危機感を覚えていた。

塾の敷地境界に目をやると、隣の空き家の伸びた雑草だけでなく、先生の自宅の周囲にも雑草、雑木が茂っている。さらに、片隅には長年使われていない、蜘蛛の巣だらけの古い自転車がポツンと置き去りにされていた。

「これでは、ハチに『ここに新しい巣を作ってください』と言っているようなものだ……」

アシナガバチやスズメバチは、生い茂った草むらや、放置された自転車のサドルの裏、カゴの隙間などを絶好の営巣ポイントとして好む。今回は空き家の軒下だったが、このまま放置していれば、この夏のうちに塾の敷地内に新たな巣ができるのは時間の問題だった。

もし、夕方の授業に通ってくる小さな子供たちが、その雑草の中に隠された巣に気づかず、足を踏み入れてしまったら――。

アナフィラキシー・ショックの恐ろしさを知る身としては、想像するだけで背筋が凍る。また、万が一塾の敷地内で生徒が刺されるような事態になれば、先生が築き上げてきた地域からの信用は一瞬で失墜し、最悪の場合、重大な責任問題へと発展しかねない。

私は防護服を脱ぎ、先生のもとへと向かった。

「先生、ハチの巣はすべて駆除しました。しかし、このご自宅の周りの環境のままでは、これから夏に向けて、何度でもハチがやってきて新しく巣を作ってしまいます。ハチが嫌うのは『見通しが良く、風通しが良い場所』です。もしよろしければ、明日、私にこのご自宅の周りの草刈りを徹底的にやらせていただけませんか? 巣ができてからの『駆除』より、巣を作らせない『予防』こそが、何よりの安全策なんです」

私の提案を聞いた先生は、目を見開いた後、すがるような表情で両手を合わせられた。

「ぜひ、ぜひお願いします……! お恥ずかしい話、庭の手入れまで手が回っていなくて……。もう、こんな怖い思いは二度と繰り返したくありません。子供たちの安全のためにも、中山さん、助けてください!」

先生からの二つ返事の懇願を受け、私は翌日の「予防作戦」を決意した。

第六章:風が通る庭 ―― 定期点検が紡ぐ信頼の絆

翌日の朝一番、私は車に草刈り機や集草バッグなどの専門機材を大量に積み込み、再び現場へと乗り込んだ。

前日の緊迫した空気とは打って変わり、この日はカラリとした晴天だった。私はエンジン式の草刈り機を始動させ、激しい音とともに、先生の自宅周辺に生い茂っていた雑草や雑木を容赦なく刈り取っていった。蜘蛛の巣が張り巡らされていた古い放置自転車も移動させ、その周辺の死角をすべて無くしていく。

数時間の猛作業の末、あれほど鬱蒼としていた庭は見違えるようにスッキリと、綺麗に生まれ変わった。

地面の隅々まで遮るものがなくなり、初夏の太陽の光がダイレクトに降り注ぐ。

雑草が溜め込んでいたジメジメとした湿気は一瞬で吹き飛び、どこからでも心地よい風が通り抜けるようになった。これほど見通しが良く、風が通る場所を、身を隠して営巣したいハチたちは最も嫌う。ハチが寄り付きにくい「鉄壁の環境」が、ここに完成したのだ。

作業を終え、汗を拭いながら報告すると、先生は新築当時の輝きを取り戻した庭を見て、何度も歓声を上げて喜んでくれた。

「すごい……! こんなに綺麗になるなんて! これで今日から、何の心配もなく、笑顔で生徒の子供たちを迎え入れることができます。本当に、本当にありがとうございました……!」

先生は安心した表情で、そう深くお礼を言ってくれた。そして、少しはにかみながら、こう言葉を続けてくれた。

「中山さん、もしよろしければ……これから定期的に、この草刈りとハチの点検をお願いしてもいいですか? 私一人では、どうしてもここまでの管理ができなくて」

「もちろんです。ハチの駆除はもちろん、ハチを寄せ付けないための環境づくりまで、すべて私に安心してお任せください!」

その言葉をきっかけに、先生との長年のお付き合いが始まった。

それ以来、私は2〜3年おきに、ハチの活動が本格化する前の季節に定期的な草刈りと、敷地全体の予防点検を行っている。

あれから数年が経過した。

バッサバッサと草を刈り、風通しを良くし続けることで、現在に至るまでこの英語塾でのハチの営巣は「皆無」を維持している。

草刈り前
草刈り前
草刈り後
草刈り後

結び:生徒たちの笑い声が響く教室

作業を終えて帰路につく車中、私の胸には心地よい充実感が広がっていた。

私たちの仕事は、ただ目の前に現れたハチの息の根を止めるだけではない。その背後にある、お客様の日常の平穏や、仕事への信用、そしてそこに関わる人々の命を守ることにある。

今回の件で言えば、私がただ「部屋の5匹を駆除して終わり」にしていたら、この塾の未来はどうなっていただろうか。予防という観点に踏み込んだからこそ、子供たちが安心して学べる空間を長年にわたって守り続けることができている。

夕方、あの教室からは、再び子供たちの元気な笑い声と、先生の明るい英語の発音が響いているはずだ。

「ハチ駆除も、その後の安心も、すべては【家の110番】へ」

その約束を果たすため、私は今日も、はしごと草刈り機を相棒に、南大阪の街を走り続けている。


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