貝塚市 ドロバチ 出入り口封鎖

ドロバチの出入り口

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目次

エアコンから侵入する「正体不明」の影を追え――命を懸けた、高所での「穴埋め」戦術

第一章:静かな部屋に忍び寄る「異変」

回収された死骸からドロバチの特徴が確認された
回収された死骸からドロバチの特徴が確認された
エアコン配管取り入れ口のカバーが欠落した壁
エアコン配管取り入れ口のカバーが欠落した壁

「家の110番さんですか? 見たこともないハチのようなものが、エアコンから部屋に入ってくるんです……。今すぐ、お願いできませんか?」

電話の向こうの奥様は、呼吸さえ荒く、極限の不安に苛まれていた。貝塚市という立地は、事務所からわずか10分。私は即座に、「奥様、まずは安全な場所へ避難してください。その部屋は閉め切って、絶対に中に入らないで」と冷静に指示を出し、迷うことなく現場へ急行した。

現場に到着し、奥様から手渡されたのは、無残に千切れた一匹の虫の死骸だった。

一目で分かった。「ドロバチ」だ。

エアコンの配管ホースを導くための「壁の穴」。そこを塞いでいたはずの配管カバーが、先日の台風によって吹き飛ばされていた。ドロバチにとって、その穴は外の世界と直結する便利なトンネルとなり、エアコン内部へと迷い込む入り口と化していたのだ。正体が分かれば、あとは対処するだけ。だが、その「対処」こそが、今回の現場における最大の難所であった。

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第二章:足場なき高所の「崖っぷち」

境界が狭く外からハシゴをかける事は不可能
境界が狭く外からハシゴをかける事は不可能
二階の部屋の窓から身を乗り出してパテを埋め込む
二階の部屋の窓から身を乗り出してパテを埋め込む

建物の外壁を確認し、私は言葉を失った。

ハシゴを立てようにも、そこには足場を確保できる平地がない。境界線の先には水を張った田んぼが広がっており、地面にハシゴを立てることは不可能だ。窓から身を乗り出して作業を試みるにも、その距離はあまりに遠く、かつ絶妙に手が届かない「死の距離」だった。

プロとして、リスクを冷静に計算する。

普通ならば足場を組むような現場だ。そのまま作業を強行すれば、命の危険を伴う。だが、奥様が待つ部屋は、今も「侵入者」によって安らぎを奪われているのだ。

「腹を括るしかない」

私は2階の窓から身を乗り出し、左手で窓枠を掴むという、極めて不安定な姿勢を取った。右半分を空中にさらし、左足だけで重心を支える。眼下には、落下すれば間違いなく致命傷となるフェンスや給湯器の機材が広がっていた。

以前、豊能郡で3階用のハシゴでも届かなかった屋根の軒下での駆除を思い出す。あの時の凍りつくような恐怖が、背筋を駆け抜ける。しかし、迷っている暇はなかった。

第三章:左手に託された「命の重み」

まずは穴に薬剤を噴射する。経路を通じてエアコン内部に薬剤の匂いが流れ込み、中に潜んでいたドロバチは一掃されたはずだ。だが、これで終わりではない。物理的に「穴」を塞がなければ、新たな侵入者は後を絶たない。

エアコン用のパテを小分けにし、一つひとつを穴に詰め込んでいく作業が始まった。

私の体重の全てが、窓枠を掴む左手一点に集中する。回数を重ねるごとに、握力が限界を迎え、指先が痺れてくる。真夏の炎天下、額から流れる汗が目に沁み、視界を奪う。しかしそれを拭い去る自由を奪われた体勢ではどうする事も出来ない、気持ちが折れそうになりながら、ただひたすらパテを詰め込むという単調かつ極限の動作を繰り返す。

「頑張れ!あともう少しだ!」

自分自身を鼓舞し、脳内で作業をシミュレーションし続ける。一回で埋めようと欲張れば、重心を崩して終わりだ。何度も繰り返し、確実に、穴の隙間を埋めていく。その一分一秒が、永遠のように感じられた。

第四章:極限の先にあった「誇り」

ついに、パテが綺麗に穴を塞いだ。

「やり切った!」

極度の緊張から解放された瞬間、全身から力が抜けそうになるのを必死に堪える。窓枠から部屋の中へと這い戻ったとき、自分の身体が酷く震えていることに気づいた。

「奥様、もう大丈夫です。穴は完全に塞ぎました。ドロバチは二度と侵入できません」

奥様は、それまでの強張った表情を崩し、心からの安堵の笑みを浮かべた。「すぐに来てくださって、本当にありがとう。もう、安心して部屋に入れます」

その言葉が、極限まで張り詰めていた私の神経を、柔らかく癒やしていく。

毎年、何回かは「身の危険」を肌で感じる現場に遭遇する。今回もまた、その一つとなった。プロとしての矜持とは、困難な状況を前にして「できない」と切り捨てることではなく、いかにして安全を確保し、目的を完遂するかという執念にあると、私は改めて確信した。

結び:また明日、この空の下で

貝塚の現場を後にする車の中で、私は今日一日が無事であったことに静かに感謝を捧げた。

「今日は無事に帰れるか?」

そんな問いが脳裏をよぎるような現場であっても、一旦引き受けた依頼は最後までやり遂げる。それが、私が選んだ【家の110番】という生き方だ。

帰りの車窓を流れる景色を見つめながら、私は思う。

この先、どれだけ危険な現場が待っていようとも、私が駆けつけることで、誰かの日常の平穏が守られるなら、この仕事に代わるものなどない。

夕日が貝塚の街を赤く染め、一日の終わりを告げている。

私はまたエンジンをかけ、次なるSOSを待つ。命を懸けてでも守りたい、誰かの「いつもの平穏」のために。

私の駆除人生は、今日も終わることなく、明日へと繋がっていく。

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