和歌山県海草郡 アシナガバチの巣駆除

2階窓枠にハシゴかける

和歌山県海草郡での、刺されながらのアシナガバチの巣駆除記録です
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目次

絶望的な一撃必殺――和歌山の空の下、痛みと恐怖を越えて挑んだ捨て身の勝負

第一章:3年の時を繋ぐ電話と、懐かしき「あの場所」

「もしもし、こちら中山さんの携帯でしょうか?」

仕事中にかかってきた一本の電話。聞き慣れない声だったが、その内容は驚くべきものだった。

「実は、お向かいの方が以前【家の110番】の中山さんにハチ駆除をしてもらったそうでして。連絡先を教えていただいたんです。うちの2階の窓にも大きなハチの巣ができてしまって……ぜひ駆除をお願いしたいのですが」

電話の主が挙げた地名は、和歌山県海草郡。私が3年前に駆除に伺ったあのお宅のすぐ近くの方だという。残念ながらその場では3年前の記憶と名前が即座に一致しなかったが、大切なお客様からの「繋がり」を無碍にはできない。

「ご縁をいただきありがとうございます。すぐにお伺いして、現場を確認させていただきますね」

50分ほどの道中、車を走らせるうちに、海草郡の景色が次第に懐かしい輪郭を取り戻し始めた。目的地に近づくにつれ、かつて走った小道や並んでいる家々が、記憶の断片をパズルのように繋ぎ合わせる。そして現場に到着し、お向かいの家の姿を認めた瞬間、3年前の、あのスズメバチとの激闘の記憶が鮮明に脳裏で爆発した。

車を降りると、紹介してくださったお向かいの奥様が出迎えてくれた。

「中山さん、お久しぶりです! 懐かしいですね」

「奥様、本当にご無沙汰しております! あの時は大変お世話になりました」

「おかげさまで、あれ以来一度も巣を作られていないんですよ」と奥様は嬉しそうに微笑んだ。

そんな温かい再会を噛みしめる間もなく、今回のご依頼主であるご夫婦が、祈るような面持ちで待っていてくださった。

「中山さん、わざわざありがとうございます。あそこなんです……2階の窓枠の下に……」

ご主人様が指差した先を見上げて、私は息を呑んだ。窓枠の角に、アシナガバチの巨大な巣が重たそうにぶら下がっている。巣の周囲には、びっしりとアシナガバチが群がり、活発に動き回っていた。

第二章:牙を剥くアシナガバチ、通用しない「いつもの手段」

「これは……見事な大きさですね」

私の言葉に、奥様が不安げに付け加えた。「そうなんです。あんなに大きくなるまで、窓に近寄らなかったので全く気づかなくて。ご近所の方から『ハチがすごいことになっているわよ』と声をかけられて、初めて気づいたんです」

気づけば、私の周囲にはご近所の方々が一人、また一人と集まってきていた。

「よし、今から駆除を行います。皆さんは室内に入って窓を閉めてください」


皆さんの顔には、明らかに不安と緊張が刻まれている。窓を閉め切り、遠巻きに駆除の行方を見守っている。それだけ、この巣が地域にとっての脅威であったということだ。

現場を観察し、私はすぐに冷や汗が流れるような状況を悟った。巣が窓枠の角からはみ出るように形成されているため、いつものように養生シートで完全に覆うことができない。仮に覆ったとしても隙間ができ、そこから数多のハチが逃げ出し、反撃の嵐が巻き起こるだろう。しかも、不安定なハシゴの上では逃げ場もない。

「正面突破しか道はないのか……」

刺された時の、あの衝撃と電撃のような痛みを私は知っている。その苦痛だけは、何度経験しても慣れることはない。しかし、ここで退く選択肢はない。私はハシゴを、巣に振動を与えぬよう細心の注意を払って壁に立てかけた。

第三章:捨て身の賭けと、左手に走った電撃

忍び足で巣に近付く画像
忍び足で巣に近付く
巣に群がり活発に動くアシナガバチの画像
巣に群がり活発に動くアシナガバチ
駆除直後のアシナガバチの巣の画像
駆除直後のアシナガバチの巣

防護服に身を包み、息を殺して巣に近づく。厚みのある巣には、子育てに忙しいアシナガバチたちがびっしりと張り付いている。

ハシゴの上では自由が利かない。転落防止のために片手はハシゴを掴まねばならず、使えるのは実質片手のみ。通常なら二つの道具を同時に操るような状況も、全てを片手でとっかえひっかえしなければならない。

「一か八か、両手を使おう」

私は賭けに出た。片手に捕獲網、もう片手に薬剤を持ち、両足のバランスだけで踏ん張るという危険な姿勢だ。

巣の至近距離に肉薄し、捕獲網を被せると同時に、薬剤のレバーが折れんばかりの力で引き絞った。

「シュウウウーッ!!」

強烈な噴射圧が巣を包み込む。しかし予想通り、捕獲網のわずかな隙間から数え切れないほどのアシナガバチが四方八方に弾け飛んだ。

「まずい! 全員が戻ってくる前に巣を撤去しなければ!」

視界の悪い防護服の中、私は必死で道具を入れ替えた。焦りから道具を落とし、ハシゴを降りては登る。作業効率は最悪だ。

「こうなれば、リスクを取るしかない」

私は判断し、分厚いゴム手袋を外した。素手なら作業は早くなる。刺されるリスクと引き換えに、時間との勝負に挑んだ。

巣を削り取り、跡を清掃する。その時だった。

ハシゴを掴んでいた左手に、チリリとした違和感が走った。見れば、そこには2匹のアシナガバチが食らいついている。

「しまった!」

次の瞬間、左手に言葉では表現できないような激痛が走った。「ギャッ!」と声を上げ、私は反射的に薬剤を手に吹き付けた。1匹は落としたが、もう1匹は逃げた。私はハシゴから転げ落ちるように降りると、すぐさま水道水で患部を洗い、毒を絞り出した。

第四章:応援に支えられて、見せたプロの意地

アシナガバチの巣跡の画像
アシナガバチの巣跡(この直後アシナガバチに刺される)
巣跡清掃後の画像①
巣跡清掃後①
巣跡清掃後の画像②
巣跡清掃後②

「大丈夫ですか!? 救急車呼びましょうか!?」

ご夫婦やご近所の方々が駆け寄ってくる。左手はみるみるうちに腫れ上がり、脈打つような痛みが全身を駆け巡る。しかし、今ここで作業を止めるわけにはいかない。

「……大丈夫です。まだ作業が残っていますから」

私の姿を見た人々は「プロでも刺されるのか。素人での駆除がどれほど無謀か身に染みてわかった」と、その恐怖を再確認したようだ。これが、図らずも私という存在による「啓蒙活動」になったのかもしれない。

残るは忌避剤の散布と、舞い戻ってくる「戻りバチ」の掃討だ。

驚くべきことが起きた。集まっていたご近所の方々が、私をサポートし始めたのだ。

「中山さん、後ろ!」「右に1匹いるよ!」「中山さん、足元!」

皆が私の目を代わり、ハシゴの下で道具を手渡してくれる。その光景に、胸が熱くなった。一人ではない。皆の応援を背に、最後の1匹まで捕獲網で仕留めていく。

駆除が完全に完了したとき、現場には不思議な一体感が漂っていた。

「中山さん、本当にありがとう。自分たちではどうにもできなかった」

「いやいや中山さん、もし今度、うちにも巣ができたらお願いするからね!」

帰路、ハンドルを握る左手はパンパンに腫れ上がり、ズキズキと痛んでいた。しかし、帰り際に交わした笑顔と、また頼るよという言葉が、その痛みを和らげてくれるような気がした。

和歌山の空はどこまでも高く、青かった。私はこの手の痛みを「プロの勲章」と呼び、確かな達成感を胸に、家路を急いだ。

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