岸和田市 自転車に営巣のハチ駆除

自転車にアシナガバチの巣1

目次

幼い少女の笑顔を守れ! ―岸和田・新築マイホームに潜む「自転車の罠」とプロの執念

第一章:一本の電話に込められた「父の焦燥」

連日の駆除作業で酷使した機材を、いつものように丁寧に手入れしていた時のことだった。静かな作業場に、私の携帯電話の呼び出し音が鋭く響き渡った。

画面に表示されたのは、地元・岸和田市からの依頼。受話器を取るやいなや、30代と思われる男性の、ひどく狼狽した声が飛び込んできた。

「……ハチなんです!娘の自転車のカゴに、ハチが巣を作っていて……。あんな小さな子が刺されたらと思うと、私ではどうすることもできなくて。今すぐ、今すぐ来てもらえませんか!?」

電話越しでも、彼がどれほど愛娘のことを心配し、パニックに近い状態にあるかが痛いほど伝わってきた。父親にとって、子供の安全を脅かす存在は、何よりも許しがたい「侵略者」だ。

「安心してください。ここからなら15分から20分で到着できます。すぐに伺います」

そう短く告げると、男性は「……お願いします、本当に。宜しくお願いします!!」と、すがるような声で二つ返事をされた。私は整備中だった機材を素早く車に積み込み、岸和田の住宅街へとアクセルを踏み込んだ。

第二章:お洒落な新築と「倒れたままの自転車」

倒れた自転車

現場に到着すると、そこにはまだ建てられて間もない、お洒落でモダンな新築住宅が佇んでいた。しかし、私には分かっている。ハチという生き物は、家の新旧やデザインなど一切気にしない。彼らにとって重要なのは「雨風が凌げるか」「外敵から見つかりにくいか」という生存条件だけだ。

チャイムを鳴らすと、奥様が不安を顔いっぱいに浮かべて出てこられた。

問題の自転車がある場所を尋ねると、彼女が恐る恐る指差した先――そこには、一台の小さな自転車が、無残に倒れたままになっていた。

ハチに気づいた瞬間、あまりの恐怖に放り投げて逃げ出したのだろう。その無造作な倒れ方が、現場の緊迫したパニックの瞬間を雄弁に物語っていた。

しばらく乗っていなかったというその自転車には、保護用のビニールシートが掛けられていた。

「これは、ハチにとっては『五つ星ホテル』ですよ」

私は独り言のようにつぶやいた。

シートの内側は、雨風を完璧に遮断し、人間や外敵の視線からも巣を隠してくれる。ハチにとって、これ以上ない理想的な営巣ポイントなのだ。

第三章:二つの要塞と「ミイラ取り」の教訓

前かごにアシナガバチの巣
前かごにアシナガバチの巣
シートに覆われた自転車
シートに覆われた自転車
シートの中の後輪にアシナガバチの巣
シートの中の後輪にアシナガバチの巣

私は慎重に足を進めた。

ハチ駆除において、最も危険なのは「思い込み」だ。

「カゴに巣がある」と言われてカゴだけに集中していると、サドルの裏やフレームの影に潜んでいた別のハチに、無防備な背後を突かれることになる。ミイラ取りがミイラになる――そんな不名誉な事態は、プロとして絶対に避けなければならない。

私はゆっくりと、ミリ単位の慎重さでシートを剥がしていった。

案の定だった。

前カゴに作られたアシナガバチの小さな巣に加え、後輪のホイールにも第二の巣が構築されていた。

どちらも作り始めの小さな巣だが、だからこそ質が悪い。

一方の巣には、女王バチが宝物を守るようにじっと居座っていたが、もう一方の巣には主(あるじ)の姿がなかった。

「……狩りに出かけているな」

この状況を奥様に伝えると、彼女は「えっ!なんで……?二つも?本当ですか!?」と、絶望したような表情で絶句された。

この家は建ててまだ3年。去年も室外機の横に巣を作られたという。さらに周囲を見渡すと、この巣の住人ではない別のアシナガバチも、数匹が興味深そうにこの家を徘徊している。

どうやら、このお洒落な新居には、ハチを惹きつける「何か」がある。地形、風の流れ、あるいは庭の植栽――。理由は何であれ、このままでは、幼いお子さんが安心して庭で遊ぶことなどできない。

「奥様、大丈夫ですよ。今ある巣の駆除はもちろん、家全体を無料で調査します。作業が終わるまで、お子さんと一緒に窓を閉めて、家の中で待っていてください」

私の言葉に、奥様は深く頷き、家の中へと避難された。

第四章:一時間の持久戦 ―― 女王バチとの「間合い」

前かごの巣(駆除前)
前かごの巣(駆除前)
前かごの巣(駆除後)
前かごの巣(駆除後)
ホイールの巣(駆除前)
ホイールの巣(駆除前)
ホイールの巣(駆除後)
ホイールの巣(駆除後)

二つの巣の物理的な撤去は、5分から10分で終わった。

しかし、私の心は少しも晴れなかった。

もう一匹の、狩りに出かけた「女王バチ」がまだ戻ってきていないからだ。

通常、巣を撤去して忌避剤を撒けば、仕事としては「完了」とする業者も多いだろう。戻りバチを捕まえるのは運次第、というのが業界の常識でもある。

しかし、相手は女王バチだ。

彼女は自分の巣があった場所を正確に記憶している。もし彼女を逃がせば、執念深く同じ場所に、あるいは隣の室外機に、再び巣を作り始めるだろう。

そして、その自転車には、またあの幼い女の子が乗るのだ。

もし、再営巣に気づかず、女の子がカゴに手を伸ばした瞬間、ハチが襲いかかったら?

痛みに泣き叫ぶ少女の姿、そして自分を責めるご両親の顔を想像すると、胸が張り裂けそうになった。

「ここで完全に終わらせるのが、プロだ」

私は覚悟を決め、防護服を着たまま、壁の陰で「持久戦」に入ることにした。

時間は刻一刻と過ぎていく。太陽が照りつけ、防護服の中の体温は上昇し、汗が目に入って沁みる。それでも、私は微動だにせず、自転車の周りの空気を監視し続けた。

待つこと一時間。

「……来た」

視界の端に、独特の浮遊感を持って飛来する影を捉えた。間違いない、女王バチだ。

彼女は、あるはずの「我が家」が消えていることに動揺したのか、自転車の周りを円を描くように飛び始めた。

私はゆっくりと、薬剤を構えた。

相手も私の殺気を感じ取ったのか、急に高度を上げ、一定の距離を保ってホバリングを始める。

お互いの「間合い」の奪い合い。新築の庭で、目に見えない火花が散るような駆け引きが続いた。

私が最後の一歩を踏み出そうとした、その瞬間――。

女王バチが鋭く羽ばたき、空へと舞い上がった。

「しまった!」

放たれた薬剤の軌跡は空を切り、彼女は嘲笑うかのように、屋根の向こう側へと姿を消してしまった。

第五章:執念の網 ―― 少女の「未来の笑顔」のために

駆除された女王バチと徘徊バチ
駆除された女王バチと徘徊バチ

一瞬の失策。

逃げ去ったハチが戻ってくる保証はない。警戒心を最大に高めた彼女は、もう二度とここには近づかないかもしれない。

「今日はここまでか……」

心が折れそうになる。しかし、ふと窓越しに、不安げに外を覗いているご家族の視線を感じた。

「いや、まだだ。彼女は必ず戻ってくる。ここは彼女が選んだ『最高の宿』なのだから」

私は再び、物陰に身を潜めた。

さらに30分、40分……。

そして、ついにその時が来た。

屋根の影から、先ほどの個体が静かに、しかし執拗に戻ってきたのだ。

今度は壁に張り付き、じっとこちらの様子をうかがっている。

私は息を止めた。心臓の鼓動が、自分の耳にうるさいほど響く。

動作に迷いは一切いらない。私は薬剤ではなく、長尺の網を手に取った。

「そこだ!!」

電光石火の速さで網を被せる。

網の中で激しく羽音を立てる女王バチ。私はその上から一気に薬剤を噴射した。

一瞬の、しかし完璧な最後だった。

ついでに、先ほどから付近を徘徊していた別の個体も、網で確実に仕留めた。

これで、この家を脅かす「直接的なリーダー」はすべて排除した。

第六章:忌避剤という名の「盾」を添えて

一連の作業に、ようやく区切りがついた。

私は防護服を脱ぎ、額の汗を拭ってから、家全体を改めてくまなく調査した。

幸い、他に巣はなかったが、やはり近隣の家々からもハチが飛来している状況だ。

私は、自転車のカゴ、サドル裏、そして室外機や給湯器の周りなど、営巣の可能性があるポイントすべてに、強力な忌避剤をたっぷりと散布した。

「物理的な駆除」が刀なら、「忌避剤」は盾だ。

私のいない間も、この家を守り続けてくれるようにと願いを込めて、丁寧に噴霧器を動かした。

作業完了を伝えると、奥様が家から出てこられた。

倒れていた自転車を起こし、巣を取り除き、周囲の点検も終えたことを説明する。

「本当に……一時間も待ってくださったんですね」

奥様は、私が一匹のハチのために持久戦を演じていたことを知り、驚きとともに、深い安堵の表情を見せてくださった。

「去年のこともあるので、今シーズンはまだ油断しないでください。特に洗濯物を取り込む時は、柔軟剤の香りに気をつけて。もし、14日以内にまた巣を作られたり、ハチがしつこく現れたりしたら、すぐ私を呼んでください。何度でも駆けつけますから」

私の言葉に、奥様は何度も深く頭を下げられた。

その穏やかな表情を見た時、ようやく私の戦いも終わったのだと感じた。

結び:バックミラーに映る、新しい家族の景色

機材を車に片付け、現場を後にする。

バックミラー越しに見ると、先ほどまで倒れていた自転車が、しっかりとスタンドで立て直されていた。

もうすぐ、あの自転車に小さな女の子が乗り、パパやママと一緒に笑顔で岸和田の街を走る日が来るだろう。

「ハチの駆除」とは、ただ虫を殺すことではない。

そこに住む家族の、何気ない、しかしかけがえのない「日常」と「笑顔」を、恐怖という影から救い出すことなのだ。

一時間待ってでも、その一匹を逃さない。

それが、私に信頼を寄せてくれた父親への、そして何より、これから未来へ向かって自転車を漕ぎ出す少女への、私なりの「誠実さ」の形だ。

岸和田の空には、初夏の風が吹き抜けていた。

私は次の現場を思い描きながら、心地よい疲労感とともに車を走らせた。

明日の朝、あの女の子が元気いっぱいに外へ飛び出していけることを、心から願いながら。

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